2014年1月24日 (金)

君がいたから

Viewは浅岡雄也さん(Vo.)、小田孝さん(G.)小橋琢人さん(Dr.)、安部潤さん(Key.)の4人で結成して、1994年2月9日にシングル「あの時の中で僕らは」でデビューしました。2枚のシングルを出した後、より良い内容にしていくために一旦リセットして、新たな方向性を探る事になりました。

まず、プロデューサーの長戸大幸さんから、浅岡さんの歌い方を再確認するよう指示がありました。元々は自然なビブラートのかかる憂いを帯びた声でしたが、もっと違う歌い方、例えば声を口腔の上に当ててまっすぐ伸ばすような発生にしたら、歌をもっと素直に届けられるのではないか、という観点から探っていきました。また色々なアーティストの歌を歌ってみて、どのタイプが彼に似合うか、毎日プリプロダクションを続けました。これらはスポーツに例えるとピッチャーが投球フォームを改造していくみたいな事です。しかしViewとして一度世の中に出ているので、それ以上の歌を作って出していくために、切り替えと変革が必要になってきます。でもこの練習は、どういう曲が浅岡さんの声に相応しい歌になるのかを探る意味合いもあり、非常に有意義でした。
イギリスらしさを追求していく事になり、バンド名も検討した結果、プロデューサーによりFIELD OF VIEWというバンド名に改められました。浅岡さんは元々ELO、XTC等イギリスのバンドに傾倒していた事もあり、さっそくメンバーは真摯に音楽に取り組みました。衣装もイギリスのバンドを継承すべく、スーツに決定しました。ビートルズのようにあえてネクタイを緩めたスタイル(ビートルズは不良少年の象徴でした)です。

そして楽曲提供ですが、プロデューサーがFIELD OF VIEW用に選んだ曲は織田哲郎さんのあるデモでした。とても良いメロディでしたが、サビのは入り口があまり高くない音域で始まるためか、僕はこのデモを最初に聴いた時に、果たして盛り上がる曲になるのかな?という不安を抱きました。しかし、ZARD・坂井泉水さんが書いてきた歌詞は秀逸でした。サビのメロディが強すぎないからこそ、強いメッセージや言葉を伝えられる歌になったわけです。アレンジは葉山たけしさん。イギリスの曇天に荒野が広がっているかのようなイントロで、チューブラベルとホルンの音色が印象的です。歌の録音は、上記に紹介したように発声を確認しながらの作業でしたが、完成した時はまさに日進月歩を実感出来ました。コーラスは坂井さん始め、生沢佑一さん、大黒摩季さん、川島だりあさん、宇徳敬子さんが参加して、曲がさらにパワー・アップしました。こうして「君がいたから」が完成し大ヒット作品になり、FIELD OF VIEWは多くの方に支持されるバンドになりました。

僕は数年後改めて歌詞を見ながらじっくりと聴いて、驚きました。それは曲が完成した時よりも、この曲をもっと深く理解出来ていたからです。そして今はこの歌詞を読む度に、色々な角度から感じられるようになりました。いわゆる名作と呼ばれている小説は、学生時代に読んだままになっているケースも多々ありますが、例えば10年に一度位のペースでいいから大人になってからも時々読むと良い、と聞いた事があります。若い時に気付かなかった事を発見し、理解の深さや印象はどんどん変化していくからです。僕は夏目漱石の[坊ちゃん]で実践し実感していましたが、「君がいたから」もまさに同じ感覚で味わう事が出来ました。FIELD OF VIEWは惜しくも2002年12月に解散しましたが、上記の4人と途中から加入した新津健二さん(B.)も含め、皆さん音楽の世界で活動を続けられています。そして「君がいたから」は今も心に残る曲として光り輝いていると思います。もしも機会がありましたら、是非お聴き頂き、歌詞をじっくり読んでみて下さい。今まで気づかなかった新たな発見があるかもしれません。

Being Works  第3回 君がいたから
text by  Hiroshi Terao

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